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Friday, February 3, 2012

SPRING-SUMMER 2012 HAUTE COUTURE
BY ELISABETH QUIN

魂の逃避行。空想上のフライト。2012春夏 オートクチュール コレクション ショーに満ちあふれていたのは愛でした。その比類のない卓越したクオリティーや素材、演出、シャネルに捧げられた素晴らしい職人技にも、愛がありました。 また、ユーモアのセンスも健在です。1月24日火曜日のグラン パレには、映画『キャッチ ミー イフ ユー キャン』に出てきたような飛行機のキャビンが、忠実に再現されていました。パンナム(パンアメリカン航空)時代の飛行機の旅にまつわる神話とともに、60 年代のゆったりとした精神が漂っています。2012年の私たちを迎えてくれたのは、小悪魔的な雰囲気のフライト アテンダント。清々しく美しいスタイルとあたたかく洗練された所作に、思わず笑みがこぼれます。この飛行機にビジネスクラスは存在しません。誰もがファー ストクラスに座る、それがシャネルの民主主義です。

飛行機の製造基準からは大きく外れているかもしれませんが、私たちの頭上には、巨大な雲が流れていきます。コレクション ショーが始まり、続けざまに登場したルックは驚くほどピュアなショート丈のドレス。ロールカラーのネックとドロップ ウエスト、低い位置に施されたポケット、そして今回のコレクションの特徴的なスタイルとして、モデルたちは両手をポケットに入れています。手はアクセサ リーの束縛から、心はブルジョアの制約から解き放たれました。きわめてマドモアゼル シャネルらしい、カジュアルでエレガントなスタイル。そして同時に存在するのは、ひとすじの尊大さです。空と大地のはざまで繰り広げられるショーにふさわ しく、コレクションにはさまざまなブルーが登場しました。ブルーは豊かさや気高さを表わすとともに、無限を意味する色でもあります。スレート ブルー、サファイア、ラベンダー、ディープ マーブル、コバルト、ラピスラズリ、ネイビー、ミッドナイト ブルー、そして忘れてはならない、シャネルが最も愛するブラック。

スパンコール刺繍、クリスタル、カボション、羽根やラインストーンから煌めく光が、あらゆる色に輝きを添えています。マットからグロッシーへ。ライ ト ブルーのスパンコールで覆われ、虹と孔雀の目を模った刺繍が施されたパフスリーブのドレスに、私たちがどれほど触れたかったことでしょう。表面をそっと撫 でてみたいと思わせたのは、グレー ブルーのツイード スカート。光沢のある刺繍が施され、裾に向かって、まるで魔法のように、ツイードからレースへと変化しています。そしてブラックのコート ドレス。ショート丈のドレスに用いられた体操選手のネックラインを彷彿とさせるストラップの演出。極楽鳥の羽のような美しいプリーツの立体的な両袖が、息 をのむほど優美なバランスを生み出していました。

1920年代のシルエット、1960年代のグラフィックデザイン、そして1980年代のパンク的反骨精神までも取り入れた見事なコレクション。もっ とも、モヒカンを思わせる逆立ったヘアスタイルは豪華なヘッドジュエリーで飾られ、クラストパンクルックとはかけ離れたものになっていました。光またたく カメリア、宝石を散りばめた月、天空のさざめきとともに直立する羽根。ひざ上に星座のような刺繍が施されたストッキングは、このコレクションでどうしても 欲しい逸品のひとつとなりました。

雲がひとつ、機内を漂っています。なんて素敵な演出でしょう。心が痛くなるほどピュアなイヴニングガウンのように、淡く、はかない雲です。ショーはフィナーレを迎えます。目を上げると、ガラスの天井越しには星がきらめく夜空がありました。
「超音速ジェット機の轟音が私の思考を引き裂いてゆく。空には、白く、白く、その航跡が曲線を描いて残るのみ」――ルイ アラゴン("A supersonic jet cuts off my thoughts with a Bang, trailing its signature across the sky, silent, curling, white, white" – Louis Aragon)

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